【5】自動巻き機構の仕組み
前回は、リューズでゼンマイを巻く仕組みについてみてきました。いわゆる手巻き機械(ハンドワインディング)と呼ばれるものです。今回は、機械式の主流である自動巻き(オートマチック)機構についてその仕組みを理解しておきましょう。自動巻きは手でリューズを巻く代わりにローター(回転鐘)と呼ばれる分銅を腕の動き(時計を腕にはめた状態)でその回転する力を歯車等を使って香箱車を回してゼンマイを巻き上げます。ローターは、左右どちらにも回転しますが、香箱車(ゼンマイを巻く方向)は、手巻きと同様一方向なのでその仕組みには幾つかの方式があります。代表的な方式を3つ説明します。1、マジックレバー方式 2、遊動車方式 3、切り替え車方式 普通の自動巻き時計の70~80%くらいは、ほぼこの方式か亜種です。他にもハンマー式(ハーフローター)とかマイクローター、ペラトン方式といったものがあります。
1.マジックレバー方式
セイコーが開発した部品点数の少ない、かつ巻き上げ効率の優れた方式です。ローター(回転鐘)の左右の回転によりボールベアリングの偏心ピンが円運動をします。その運動によりマジックレバーが往復運動をしてマジックレバーのツメを左右にスライドさせ伝え車を常に一定方向へ回し伝え車は、その力を角穴車を回しゼンマイを巻き上げます。(図1)
図1
腕の動きでボールベアリングに取り付けられたローター(回転鐘)が回りこの運動がボールベアリングの上に固定してある偏心ピンを通してマジックレバーに伝えられます。マジックレバーは、伝え車を一方向にだけ回すよう一方を「引き爪」にもう一方が「送りツメ」となっていて伝え車の歯は、これに合わせた傾斜したラチェット型になっています。(図2)
図2
実写で見てみましょう。(図3・4)偏心ピンが、ベアリングの中心よりズレて付いているのがわかります。これによりマジックレバーが往復運動となり入爪、出爪と斜め歯の関係で一方向へ回るんですね。
図3
図4
基本的に自動巻きムーブメントは、手巻きムーブメントに自動巻き機構を付け加えたものです。図5・6をご覧ください。納得いきますね。
図5
図6
2、遊動車方式ローター(回転鐘)が右回転すると遊動車(A)は左回転し、遊動座も左方向へスライドします。その時、遊動車(A)は、1番伝え車とかみ合い2番伝え車をかえして香箱車のゼンマイを巻きます。伝え車は、右方向へ回ります。また、遊動車(B)は、遊動座が左方向へスライドした為、1番伝え車とのかみ合う事ができず空転します。(図7)一方、ローター(回転鐘)が左回転すると遊動車(A)は右回転し、遊動座を右へスライドさせ1番車とのかみ合いが外れ遊動車(B)とかみ合い遊動車(B)は、1番伝え車とかみ合い1番伝え車は右方向へ回ります。このように1番伝え車は、常に一方向(右回転)してゼンマイを巻き上げます。(図8)
図7
3、切り替え車方式
多く用いられている方式。上下に2枚の歯車を持つ切替伝え車は、左回転の時のみロック(右回転は空転)する仕組み。ローター(回転鐘)が左右どちらに回っても切替伝え車は、常に左回転して1番伝え車、2番伝え車、角穴車と伝わってゼンマイを巻き上げます。詳しく説明するとローター(回転鐘)が左回転すると1番仲介車は右回転し切替伝え車の上歯車とかみ合って(左へ回ります)のでゼンマイを巻き上げます。この時、2番仲介車は左回転して切替伝え車の下の歯車を右回転させますが、切替えツメがツメ車をロックしないので切替伝え車の下の歯車は空転をします。ローター(回転鐘)が右回転すると1番仲介車は左回転して切替伝え車の上の歯車を右回転させますが、ツメはツメ車をロックしないので切替伝え車の上の歯車は空転をします。この時2番仲介車は右回転して切替伝え車の下の歯車を左回転させます。この時は、ツメはロックされますのでゼンマイを巻き上げます。(図9)
ちょっと???な感じでしょか?要は、ローター(回転鐘)がどちらに回っても1番仲介車、2番仲介車の一方が切替伝え車にかみ合って左回転のみ有効な切替伝え車を回し、力は1番、2番伝え車、角穴車、香箱真と伝わってゼンマイを巻き上げるのです。
最後に自動巻きは、腕の動きをローター(回転鐘)の回転に変えて様々な歯車を介してゼンマイを巻くことはわかりました。手巻きでは、リューズを指で回してゼンマイを巻き、巻き終わりは、だんだんと重くなったり巻けなくなったりと指に伝わる感触でわかります。では、自動巻きではどうでしょうか?腕にまいている時計からその様な感覚は伝わってきません。巻き続ければいずれ自動巻き機構が壊れてしまいます。そこで香箱とゼンマイに仕掛けが施してあります。「スリッピングアタッチメント」図10というゼンマイの巻きの外側に付けられた安全装置で、充分にゼンマイが巻かれるとスリッピングアタッチメントの付いた外側端が香箱の内壁をスリップしてこれ以上巻けない様になります。香箱の内側には、引っかかりの悪い(ガッチリ引っかからない)溝があります。引っかかりが悪いわけですからある程度ゼンマイが巻かれたら滑るを繰り返して常にほぼ巻かれた状態を保ち続けるとう仕組みです。またこれは、常に一定のトルクを輪列へ供給することになりますので精度が安定するということにもなります。
図10
自動巻きの仕組みは、要は、手でリューズを操作してゼンマイを巻く代わりにローター(回転鐘)という分銅を回してその力でゼンマイを巻くということです。分銅がどちらに回っても巻ける様に歯車に工夫がしてあり巻き止めでゼンマイが切れない様にスリップさせる仕組みがあるということです。
今は、自動巻き全盛の時代です。だいたい80時間前後のパワーリザーブ(ゼンマイの持続時間)で香箱が大きかったり2つあるものもあります。僕らの直そうとしている60年代から80年代ものは凡そ50時間前後です。手巻きは、40時間前後でしようか。
次回は、【6】時計内部の各部名称をトータルで確認!!になります。
See you again! have a nice day and nice life !
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ユニット01
コメント
コメント一覧 (2)
私は今まで手巻きの時計ばかりいじってきましたが、自動巻きのOHにチャレンジしています。
自動巻きのゼンマイを香箱に手で組む方法が今ひとつわからず、もしよければ解説していただけると幸いです。
ワインダーは使いにくいし高いので今のところ当面手組でやろうと思っています。
猫仙人の友達
がしました
ご質問有難うございます。
前提としてゼンマイは、本来、器具を使って入れます。
(新品が入手できる場合は新品交換します。)
ですが、ご自身の時計や趣味であれば手で入れることも可能です。
素手の場合、肉眼で見えなくても皮膚片等が混入する事が考えられますことを
ご承知おきください。また、指サックの場合も巻き込みがあり難儀します。
自動巻きも手巻も入れ方は同じで外周から入れます。
香箱内側の溝とゼンマイのスリップアタッチメントを合わせて
外周から巻き込んで行きます。最後は香箱芯の入る小さい巻きが中心に
なります。
オイルですが先に香箱内側の壁面に塗っておきます。
最後に香箱芯を入れて、底面とゼンマイ上面にも塗ります。
蓋を閉めて完成です。
あくまでも手で入れる場合であります。プロの方から見た場合は
余り勧められない方法だと思います。
猫仙人の友達
がしました